poponの書棚

言葉でみんなが幸せに、そしてポジティブになれたらいいね。そんな思いを書き込んでいます。

ナウエの物語 005-006

No.005

 

 それは、何とも言えない風景だった。

 

 ケイと肩を組み歩き始めると、また突然の灰色の世界があった。コウは勇気を出して(いやいやながら)ケイと歩みを進めると、いつの間にかだだっ広い草原の片隅に立っていた。

 遠くには、山が峰を連ねている。草原には、いたるところに低い木が点在していた。テレビで見たことのある、サバンナのようだ。

 そして、二人の背後には林が迫っていた。それは、木々の間からは向こうの景色が見えないほど密集した森だった。

 

 何より、夕方だったはずなのにやたらと景色がはっきり見えていた。

 

「どこだろう?大昔にタイムスリップしたのかな。」ケイが言う。

「うん。自然しかないみたいだね。きっと、そうだよ。」

「何億年も前の地球かもな。ひぇー、すごいなぁ。ドラえもんの世界やで。」

「昔の地球は、こんなだったんだね。すごいや。」

 

「コウ、あっちにすごく高い木があるぞ。あそこに行ってみよう。」

コウは、ケイの指さすほうを見ると、森の向こうにとてつもなく高い木が見えた。まるで、芝生の中から巨大なアロエが生えているみたいだ。

 

「でもケイちゃん、ここを離れたら帰れなくなるかもしれないよ。」コウは、そう言った瞬間に不安が足元から駆け上がってくるのを感じた。ケイの右手に持っている荷造り紐の先が、ケイのひざ元でぶらぶら揺れていた。

「ケイちゃん、紐が切れてる。どうしよう。」

「えっ、ええぇー。」ケイは、紐の先端を触りながら声を出し続けている。

 

「どうしよう。どうしよう。どうしよう。」

「大丈夫。気にすんな。」ケイは、見るからにカラ元気を出していた。

 

 ケイは考えた。まずは、この場所を覚えておかなくちゃ。何かの拍子で帰れるかもしれない。どうしよう?「そうだ。」

 

「コウ、あの木を真後ろにしたら何が見える。」

「あそこに、木が3本立ってるけど。」

「ほかに何が見える?」

「まぁ、一番遠くに見えるのは山やけど。ちょうど、山の切れ目かな、ちょっとV字に見えるけど。」

「よっしゃ、俺とおんなじや。コウ、この場所を覚えておくために忘れんなよ。」

「でもケイちゃん、あのおっきな木と3本の木と山の直線上だったら、ほぼ無限と違うかなぁ。」コウは、案外冷静にそして、ちょっと皮肉っぽく聞いてみた。

「ほんまやな。さすがコウ、学校は行ってへんけど数学的なとこはすごいよな。」

「嫌味にしか聞こえへんけど。」

「ハハハハハ。」ケイは、笑いながら困っていた。

 

 コウも、どうしようかと空を仰ぎ見た。

 

「うわっ!」

突然コウは、膝から崩れ仰向けのまま地面にへばりついた。

 

 

 

 

f:id:kurasakimachiha:20210228203124j:plain

No.006

 

 ケイは、コウの視線を追って空を見上げてみた。

「うおっ!」ケイも、膝から崩れ落ち右手で空を押し上げていた。

「なんだこりゃ。でかい、でかすぎるぞ。」

 

 宙に目をやると、二人の上空には大きな月があった。いや、月なのだろうか。あまりにも巨大すぎる。表面のクレーターも、その高さが分かるほどによく見えていた。そして、二人がそれを月と断定できない大きな違和感があった。それは、何とも言えないいびつな形をしていたからだ。一部が欠け落ちていて、まるで米粒を大きく膨らませたようなものだった。

 

「月か?」ケイが、独り言を言う。

「って言うか、ここは地球なのかな?」コウも、空に向かい呟いている。

「ジャンプしたら、あれに吸い込まれてしまいそうだな。」と言い、ケイは立ち上がった。

「ケイちゃん、待ちなよ危ないよ。」

ケイは、ジャンプした。

 

何のことはない、ちゃんと地面に着地した。

 

「それよりも、ここの場所を特定しようぜ。いいことを思いついたぞ。」ケイは、事の重大さを無視して次の行動を起こそうとしていた。

「コウ、俺が荷造り紐の端を持つから、紐をまっすぐ下の地面につけてくれ。そして地面に着いたところで結び目をつけて。」と言うと、ケイは紐を指先でつまんでまっすぐに斜め上へ伸ばした。

 コウは訳が分からずに、言われるままに結び目をつけた。

 

「これでいいぞ。分かるか、コウ。」ケイは、得意そうに聞いてきた。

 

 ケイが言うには、

・・・ケイの指先を大木のてっぺんに重ねるようにすることで、自分の立つ位置がわかる。その指先の高さを覚えておけば、大木から同じ距離を知ることができる。視線と指先の直線上より大木のてっぺんが上に出ていたら、大木に近すぎていることになる。逆に、視線と指先の直線上より下ならば、離れすぎになる。

 

「おぉ、すごいね。さすが、僕より長生きしてるだけあるね。」

コウのお尻にケイの膝蹴りがあった。

 

「じゃ、大木へ向かって出発だ。」

 

 コウとケイは森の中へと入っていった。

 森は、静かに風の音を伝え普通に鳥のさえずりも聞こえている。二人の住んでいる世界と、何ら変わらないように思えた。一つ一つの木々は直径が40~50センチくらいあり、松の木のように見える。遠くのほうでは地面のほうで何かが動く音が聞こえる。小動物でもいるのか。

 

「やっぱり、地球やろな。」ケイがつぶやく。

「うん。」コウは、きょろきょろしながら頷いた。

 

 でも、こんなに緑が多いのに何かが違うよなぁ。コウは、一人首を傾げた。

鳥の声も聞こえるし、葉っぱもあるし、森のにおいもかすかに感じる。けど、

・・・何かが足りないような

 

 二人は大木へ向け歩き続けた。

to be continued