poponの書棚

言葉でみんなが幸せに、そしてポジティブになれたらいいね。そんな思いを書き込んでいます。

ナウエの物語 003-004

No.003


 目の前が真っ暗、いや一面灰色の世界だった。肩を組んだままの二人は茫然としていた。

 

「コウ、俺、目が見えなくなった。」前を見たままのケイは、不安そうに言った。

「違うよ。僕もケイちゃんしか見えない。」

ケイは、コウのほうを見て安心した。

「よかった。でも、どうしんたんだ。」現状を理解したケイは、不安そうに言った。

 

「ケイちゃん、このまま後ずさりしよう。」コウは、何かを思い出した。

 

 コウの父親は、普通の会社員だった。高卒で、これといった趣味もない。

取柄というものは何もないけれど、それでいて知識だけはすごかった。雑学からオカルト情報まで、コウは小さい頃いろんな話を聞いた。

 そんな話の中に、『神隠し』というのがあった。人間がある日忽然と消える現象だ。世界中でそういう言葉があるそうだ。

 父が話してくれた内容は、

 

 ある国で、友達と二人で歩いていた男の子が、友達のすぐ目の前で消えてしまった。友達はびっくりして、その場でじっと立ちすくんでしまった。しばらくすると、また目の前に友達が後ろ向きで近づいてくるのが見えた。友達は心配して、「どうしたんだ。急に見えなくなったぞ。」と話すと、男の子がこたえた。

・・急に真っ白な世界の中にいた。振り向いても友達の姿もなかった。怖くなって、時間を巻き戻すつもりで後ずさりしたら戻ってこられた。・・

 

 父が言うには、

・・・人は死んでこの世界からいなくなってしまうけど、実は別の世界で新しく生まれているのかもしれない。お母さんのお腹の中にいる胎児が、泣きながら生まれ出てくる。赤ちゃんは、お腹の中とこの世界、二つの世界を経験している。それと同じように、僕らがいてる世界があるなら、全く違う世界があっても不思議ではない。そんな世界の入り口がこの世界中にあるのかもしれない。

 

「もしこれが世界の裂け目なら、後ずさりしたら戻れるかもしれない。」一人、コウは言った。

 

 そして、二人は肩を組んだまま後ずさりし始めた。

 

 

No.004

 

 コウとケイは、テーブルでチキンを食べていた。

ここは、コウの部屋だ。ベッドとテーブル、あとはパソコンとゲーム機が部屋を占領していた。窓際には沢山の女の子のフィギュアがあり、壁にはアニメのポスターが飾られていた。

 

「いったい、なんやったんやろうな?本当に、ほかの世界なんかなぁ。」

「うん。でも、戻れてよかったね。」コウは、本当に良かったと思った。

家に帰った後、コウはケイに父から聞いた不思議な話を伝えた。もう、あの辺へ行くのはやめとこう。あらためてコウは決意していた。

 

「後ずさりしたら、戻れるんやろ。だったら、もうちょっと先へ歩いてみてもええかもしれんな。長いひもを、枝に括り付けて。それを持って歩いて行ってもええかも。」ケイは、ぼそっと言った。

「えっ!えぇー! なにゆうてんの。」コウは、炭酸の入ったコップを持ったままケイを見た。

「もうちょっと行ったら、何かが見れるかもしれないんやで。違う世界やったら、すごいやないか。」ケイは嬉々として話す。

「僕は、行かないよ。」コウは決意していた。

 

 その日の夕方、コウはケイについて井上神社に来ていた。

 

 絶対に行かないと決意していたコウだったが、ケイの強引さにはいつも負けてしまう。

「コウ、荷造り紐ないか?それさえあれば大丈夫やから。」

 

 荷造り紐を眺めながら、今、ケイの後を歩いている。

・・・なんで、断れないんだろう。はぁー、いやだなぁ。・・・コウは、後悔しかなかった。

 

 いつの間にか、石柱のそばまで来ていた。

時間は、午後5時20分。あたりはまだ明るい。いつの間にか日が長くなっているのを、コウは感じた。バラの木も、朝来た時と同じように赤いつぼみをつけている。

 

 ケイは、荷造り紐を伸ばして石柱に括り付けていた。

「えっ、なんでそんなところに括るの?あかんやろ。」コウは、びっくりして叫んだ。

「なんで?丈夫やろ。」

「違うよ、なんか祟りとかあったらどうすんの。誰かのお墓かもしれんし。」

「こんな墓なんかないやろ。コウは気にしいやな。」ケイは、気にせずに紐を伸ばしながら近づいてきた。

「さあ、行くで。」ケイは、コウの肩に腕を置きバラの木へ近づいて行った。

to be continued

 

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